日本バイオ炭コンソーシアム
研究員コラム⑧ 大和田順子研究員
日本一の梅の里、和歌山県みなべ町での梅剪定枝バイオ炭化の取り組み
日本一の梅の里、和歌山県みなべ町での梅剪定枝バイオ炭化の取り組み
同志社大学総合政策科学研究科ソーシャル・イノベーションコース 教授
バイオ炭研究センター 客員研究員
大和田順子
2015年に世界農業遺産に認定
去年から和歌山県のみなべ町に通っています。みなべ町はお隣の田辺市と共にFAO(国連食糧農業機関)の「世界農業遺産」に2015年12月に認定されています。みなべ・田辺地域に梅が栽培されるようになったのは江戸時代からで、土地の多くは養分の乏しい礫質土壌で急傾斜地が多く、当地域の山地は従来の農業や林業には利用できなかったため、人々は暮らしを支えるため、この条件でも生産可能な梅の栽培を始めるとともに、雑木林を薪炭林として保全し活用してきました。尾根筋にウバメガシなどの薪炭林を残しつつ梅林を開墾して、高品質な梅を生産していいます。薪炭林は水源涵養や崩落防止等の機能を保持するとともに、ウバメガシからは堅くて良質な「紀州備長炭」が生産されています。
※出典:『世界農業遺産保全計画(第2期)』(計画期間:令和2年4月~令和7年3月)P3,みなべ・田辺地域世界農業遺産推進協議会(令和2年4月)
みなべ町の梅の生産量は日本一で、その近年の歴史を振り返ると、1965年に「南(なん)高梅(こううめ)」の種苗名称が登録され、1973年にうめ課が設置され、梅栽培・梅産業の振興に取り組み、50周年を迎えました。2006年に「紀州梅の会」が毎年6月6日を「梅の日」と定め、梅の恵みに感謝する日を制定。同年、町では梅の健康機能に関する調査を開始しました。2014年10月に、「梅干しでおにぎり条例」を施行し、2015年6月に「梅で健康のまち」を宣言しています。
私は以前、世界農業遺産等専門家会議(農林水産省)の委員(2014年4月~2020年3月)を務めており、2014年にみなべ・田辺梅システムの現地審査にうかがったこともあり、とても印象に残っている地域です。2021年に同志社の教員になったことから、関西の農業遺産認定地域にも足を運ぼうと、22年6月に学生や院生と一緒に青梅を摘みに行きました。
梅剪定枝の炭素固定量
みなべ町には1ヘクタールに約300本の梅が植えられていて、町内で約639千本。剪定枝は推計年間9,067トンになります。全量をバイオ炭にすると1,260トン、炭素貯留量は2,521トンという規模です。
町議会議員で環境問題に関心を寄せている真造賢二氏を以前から存じ上げていたことから、梅剪定枝のバイオ炭化のことをお話ししたところ、とても興味を持ってくださり、23年5月には一緒に簡易炭化器を用い真造さんの梅林で剪定枝のバイオ炭化を行いました。その後、真造さんは町議会で一般質問を行い、11月には「みなべ梅woクラブ」を設立されました。その間、9月15日には町主催のバイオ炭勉強会が開催され、80名を超える町民が参加し、立命館大学日本バイオ炭研究センターの柴田センター長、依田副センター長、深尾先生、県の工業技術センターの梶本部長が講演を行いました。私からは世界農業遺産に認定されているみなべ町が町を挙げてバイオ炭化に取り組む意義、CO2の固定化、自然共生、資源循環の効果についてお伝えしました。
町民の高い関心
その際に行った住民アンケートの結果(62名回答)の概要をご紹介します。半数位の方が剪定枝を現在は焼却していますが、火事の心配や運搬の手間に困っています。「梅剪定枝のバイオ炭化の取り組み(剪定枝の回収~炭化~畑への施用、CO2固定化、クレジット販売など)のしくみが、みなべ町で確立すると良いと思いますか」という質問に対し、約9割が「そう思う」と回答しました。理由としては「先進的な取組により町のイメージアップにつながる」(67.3%)、「脱炭素、地球温暖化防止に貢献できる」(65.4%)、「畑への施用で土壌改良効果が期待できる」(61.5%)、「持続可能な循環型農業システムを構築できるから(世界農業遺産認定地域としての貢献)」(57.7%)が5割を超えた理由でした。
このように町民の皆さまの関心の高さがうかがわれました。これからの取組の展開が楽しみなみなべ町です。ご注目ください。
※真造さんのインタビュー記事・動画が日本バイオ炭研究センターの3月下旬に公開されます。お楽しみに